こだわりの生乳と酪農家とのコミュニケーション

よつ葉乳業から

取材/文 酪農部 木幡


牛乳

牛乳の原料となる「生乳」のおはなし

 よつ葉乳業は北海道の酪農家が作った会社です。コーポレートスローガンとして、「北海道のおいしさを、まっすぐ。」を掲げて、酪農家が搾った生乳を、フレッシュなままおいしい牛乳・乳製品にして食卓にお届けすることを目指しています。

 

 牛乳、生クリーム、チーズ、ヨーグルト、スキムミルクやバターなど、様々な製品を作っていますが、酪農家が作った会社だからこそ、製品の原料となる生乳にもこだわっています。今回はよつ葉乳業が自信を持ってお届けする「2つのプレミアムミルク」の生乳が生み出される模様をお伝えします。

 

よつ葉の2つのプレミアムなミルク

特選よつ葉4.0牛乳、生産者指定よつ葉牛乳

 成分無調整牛乳、低脂肪牛乳、加工乳、乳飲料・・・スーパーの牛乳売り場には様々な種類のミルクが置かれています。その中でも「成分無調整牛乳」は、生乳に含まれる成分を除いたり、水や他の材料を足したりせず、そのまま加熱殺菌した製品です。

 

 よつ葉の「成分無調整牛乳」のラインナップには、「もっと濃厚でクリーミーな牛乳が飲みたい!」という声から生まれた「特選よつ葉4.0牛乳」と、「生産者の顔が見える牛乳が飲みたい!」という声から生まれた「生産者指定よつ葉牛乳」の2つのプレミアムなミルクがあります。

 

 どちらも生乳のおいしさをそのままギュ〜ッとパックに詰め込んだ成分無調整牛乳。さて、その生乳はどこからやってくるのか?それでは、工場のある北海道十勝地方へ、いざ出発です。

おいしい牛乳・乳製品は、おいしい飼料と健康な乳牛から。

おいしい飼料と健康な乳牛

 ここは、北海道十勝地方。よつ葉乳業の創業の地であり、広大な大地からの恵みを受けて、酪農、畜産、畑作が盛んに営まれています。内陸性の気候で一年を通して湿度が低く、夏にはプラス30℃まで暑くなり、冬にはマイナス30℃まで冷え込むこともあります。

 

 乳牛(ホルスタイン種)はもともとヨーロッパ北部が原産。実は寒さに強い生き物なんです。そのかわり暑さは大のニガテ・・・。暑過ぎる夏には乳牛たちも夏バテを起こし、飼料を食べる量もガクッと減ってしまいます。人間と同じく、乳牛たちも飼料を食べないと体調を崩してしまうし、生乳の元になる栄養素も摂取できません。酪農家は、乳牛たちがしっかりと飼料を食べられるように、毎日健康状態をチェックしたり、よりおいしい飼料を作ったり、牛舎などの環境を整えたりしているのです。

良質な生乳を搾ってもらうために、乳業ができることを考える。

よつ葉乳業酪農部横井允雄係長、渡邉誠治主任技師

写真左:横井允雄係長 写真右:渡邉誠治主任技師

 

 乳業メーカーがおいしい牛乳・乳製品を作るためには、健康な乳牛から搾られた良質な生乳と、その良質な生乳を生産してくれる酪農家の存在が欠かせません。

 

 さて、よつ葉乳業には「酪農部」という、酪農家たちや酪農家を支えるJA(農業協同組合)とコミュニケーションを取り、支援する専門部署があります。この酪農部に所属する渡邉誠治と横井允雄。それぞれ乳牛飼料や獣医師の専門知識を持っており、日々、酪農家を巡回して、生乳生産をはじめとする牧場の経営課題などを聞き取り、JAとも連携して技術的な支援を行っています。今回は、「特選よつ葉4.0牛乳」と「生産者指定よつ葉牛乳」の原料乳生産に関わる2つの牧場に渡邉と横井が訪問し、生乳生産にかける酪農家の想いを聞きました。

土づくり、草づくり、牛づくり、そして生乳生産にこだわる。

株式会社中野牧場中野大樹代表取締役

写真右:株式会社中野牧場 中野大樹代表取締役

 

 まず、横井が訪れたのは十勝平野の北西部に位置する鹿追町。北海道の湖のなかでも最も標高の高い場所に位置する「然別湖」があり、この湖を水源とした広大な扇状地を活かした農業が営まれています。訪問した牧場で出迎えてくれたのは、「株式会社中野牧場」の中野大樹代表取締役です。

 

 中野牧場の創業は1952年。経営理念「人のため、牛のため、自然のため、社員全員が一丸となって学び共に成長しあえる牧場へ」を掲げ、乳牛約650頭、うち経産牛(子牛を産んだことのある雌牛)約400頭を飼養しています(2025年2月取材時点)。出荷する生乳の平均乳脂肪分率は4.2%と高水準。一方で乳質に悪影響を与える生乳中の微生物数は低いなど、成分的にも衛生的にもハイレベルな生乳を生産しています。

 

 一般的に生乳中の乳脂肪分率が低下しやすい夏場でも、中野牧場の乳脂肪分率は4.0%を下回ることは少ないといいます。実際にどのような取り組みを行っているのでしょうか?

 
良質な生乳

写真提供:株式会社中野牧場

 

――まず、中野さんからお話を伺います。良質な生乳の生産のために、どのような取り組みをされているのでしょうか?

 

中野大樹代表取締役(以下、中野) もともと、牧場の姿勢として、自分達の持つ土地や資源を最大限に活かして営農することを大切にしていました。特に「飼料畑の土」にはこだわっています。良い土を作ることができれば、良い牧草を栽培でき、乳牛がしっかりと食べてくれる良い飼料を調製できるようになるからです。そのために、土壌を細やかに分析して、本当に必要な肥料だけを必要最低限だけ補います。

 

――良い土づくりが起点となって、良い草、良い飼料、良い乳牛、良い生乳・・・と繋がっていくのですね。

 

中野 良質な生乳を搾るためには、乳牛が健康的である必要がありますし、乳牛が健康的であるためには、居心地の良い環境で育成し、生乳生産に必要な栄養を十分に摂取させる必要があります。そのため、夏場の乳牛管理には特に気を遣います。

 

よつ葉 横井係長(以下、横井) 近年、十勝地方でも夏には気温が30℃を超えることもめずらしくなくなってきました。夏バテによって、栄養が十分に摂取できないと、生乳の乳脂肪分率が低下するだけでなく、病気の発症や寿命の短縮にも繋がっていきます。酪農家にとっても大きな問題です。

 
乳牛の健康管理

写真提供:株式会社中野牧場

 

――具体的には、どのような対策を取られているのでしょうか?

 

中野 まず飼料について、北海道の酪農家の多くは、春から秋にかけて向こう1年分のサイレージ(※)を調製・保管します。何㌧もの牧草やデントコーンを、乳酸菌など生きものの力を借りて発酵させるので、同じ牧場で作ったサイレージでも、収穫時期や水分量によって発酵品質に差が出ます。

 

横井 お漬物やお酒の品質が、原材料や発酵条件によって違ってくるのと同じですね。

 

中野 この1年分のサイレージの成分や発酵品質を全て分析し、乳牛たちにとって最も栄養価や嗜好性が高いもののみを「夏用」と決めて給餌しています。また、鹿追町の天気予報を毎日チェックしていて、真夏日になるときはこの乳牛たちにとって最高においしいサイレージを与えて、採食量が減らないように工夫しています。この気温の時は、このような対策をした・・・という記録も残してノウハウを蓄積していて、次に活かすようにしています。健康を保つには、しっかり栄養を摂って、記録も取っていくことが大切です。乳牛も人間も同じですね。

 

※サイレージ…牧草やデントコーンなどの飼料作物を、適度な水分を保ったまま密封し、発酵させて貯蔵性を高めた自給飼料。良質な発酵状態であれば乳牛の嗜好性も上がる。

 
株式会社中野牧場中野大樹代表取締役

――乳成分を高く維持するために、とても多くのことをしなければならないんですね。

 

横井 生乳の乳脂肪分率を上げるためのサプリメントもありますが、中野牧場ではそれらを与えず自給飼料が本来持つ力を有効活用し、この成分を維持されていることが特長だと思います。また、乳房炎(乳房の病気)などに罹る乳牛数も非常に少なく、乳牛たちが身体に無理なく生乳を生産できていて、健康に暮らしていることが分かります。

 

中野 乳成分のチェック、気温のチェック、サイレージの分析など、取り組むべき項目がとても多くて大変なこともあります。ただ、それでも牛乳・乳製品が大切な食品だと位置づけてもらえるように、その原料となる生乳の生産にも、こだわりを持っていきたいんです。

 

横井 本当にたくさんのお仕事をお願いしてしまっています。中野牧場をはじめ、同町内の酪農家やJAなど、多くの方々のご協力をいただいて「特選よつ葉4.0牛乳」の通年販売を実現できていると感じます。


 

――中野牧場のこれからの目標について教えていただけますでしょうか?

 

中野 これからも地元や牧場由来の資源をできる限り有効活用して乳牛を育て、生乳を生産していきたいです。土づくり、草づくり、牛づくり、そして生乳に至るまでの一連を「牧場のストーリー」として自ら説明できるようにしておくことで、牧場の経営理念がより明確になります。その理念を軸にして、牧場で働く仲間たちが一丸となって営農に取り組む。そうすることで、さらに良質な生乳を安定生産できると考えています。そうして搾った生乳をよつ葉に託すので、よりおいしくて安全な牛乳・乳製品にしてもらい、お客様に届けてもらえたら嬉しいです。

乳量だけを追求しない、自給飼料を重視した持続可能な酪農経営。

士幌町 古田牧場

 次に訪れたのは、鹿追町のおとなりの町、士幌町。「東洋一のコンビナート」と称される大きな馬鈴しょ貯蔵施設などをはじめ、農産物や畜産物の生産をするだけでなく、工場で加工して付加価値を付けて販売し、利益を農家に還元するなど、先進的な農業を推進してきた町です。よつ葉乳業の生みの親、太田寛一のふるさとでもあります。

 

 渡邉が訪問したのは、同町で酪農を営む「古田牧場」。古田牧場は、遺伝子組換え混入防止管理済み(遺伝子組換え品混入率5%以下)の飼料を使用して乳牛を育てており、「生産者指定よつ葉牛乳」や「北海道十勝生乳100プレーンヨーグルトとろっとなめらか」などの原料乳を供給する酪農家のうちの一戸です。


 
古田牧場代表 古田全利代表

 酪農家は“食品生産者”であるという考えから、代表の古田全利さんは「家族が安心して飲める牛乳を皆様に」を牧場のスローガンに掲げ、乳牛約100頭、うち経産牛約50頭を飼養しています(2025年2月取材時点)。「基本を大切に、牛の命の大切さも考えながら、おいしくて安全な生乳を生産したいんです」と話す古田さんの仕事場には、「酪農家キーニィの牛飼い哲学」のポスターが設置されていました。

 

 2023年夏には、「酪農をもっと身近に感じてもらいたい」との想いから、牛乳のお祭り「乳フェス」を実行委員長として同町内で開催されるなど、生乳生産のみならず、酪農業や牛乳・乳製品の理解促進や消費拡大にも取り組まれています。

 
古田牧場

――「生産者指定よつ葉牛乳」の原料乳供給に取り組まれたきっかけをお聞かせいただけますでしょうか。

 

古田牧場 古田全利代表(以下、古田) 2007年に先代から経営を受け継いだ当初は、配合飼料を多く与えて、よりたくさんの生乳を生産する経営方針でした。ただ、私が大学生の頃に放牧の研究をしていたこともあり、配合飼料は必要最低限に与え、できる限り牧草など自給飼料を中心に乳牛を育てる経営にしたいと思い、試行錯誤を重ねていました。そんな時に、よつ葉から声を掛けられたのです。

 

よつ葉 渡邉主任技師(以下、渡邉) 2018年、新たに「生産者指定よつ葉牛乳」の原料乳を供給していただける酪農家を探す必要があったのですが、その際、JAからご紹介いただいたのが、町内でも特に乳質が良かった古田牧場でした。

 

古田 この取り組みを始めるために、遺伝子組換え混入防止管理済みの配合飼料に切り替えたのですが、大きな課題が発生しました。乳牛たちが飼料の変化に敏感に反応し、1頭あたり乳量が減少してしまったのです。人間は毎食違う食事を取りたくなることもありますが、乳牛たちは食事の急激な変化を嫌うので、飼料が変わると突然食べなくなったり体調を崩すこともあります。

 

渡邉 一口に「配合飼料」と言っても、炭水化物を多く配合したもの、タンパク質を多く配合したものなど、様々な銘柄があります。自給飼料では足りない栄養素を補うことが出来る配合飼料。目的によって使い分けるのですが、飼料の消化には微生物が大きく関わっているので、飼料をどう組み合わせると、乳牛の身体や微生物叢にどう影響するのか、慎重な設計と観察が必要です。

 
古田牧場 乳牛

――乳牛という、生きもの相手の仕事ならではの難しい課題ですね。

 

古田 1頭あたり乳量が下がってしまったので、乳量が出やすくなるように穀物を与えるなど工夫したのですが、今度は乳牛たちの能力以上に乳量がでてしまったため、体調を崩す個体が増加しました。文字どおり、身体を削って生乳生産をさせてしまったんですね。生乳にこだわろうとしたのに、結果的に大切な乳牛たちが体調を崩してしまい、当時はとても悲しかったです。その時に、飼料の知識があるJA職員やよつ葉の渡邉さんからアドバイスをもらいました。

 

渡邉 専門家の経営分析結果を参考に、購入する配合飼料を減らしてコストを抑え、古田さんの牧場で採れる自給飼料の割合を増やす提案をしました。一時的に1頭あたり乳量は減るので、製品の原料乳も少なくなってしまうのですが、酪農経営が安定することが最も重要です。

 

古田 原料乳をしっかり供給しなければ、と思って乳量を追求したこともありましたが、まずは乳牛1頭1頭の特徴を理解して、乳牛たちが健康で幸せな状態を保つことを優先しました。

 

――古田さんが目指す牧場像に原点回帰されたのですね。

 

渡邉 古田牧場のサイレージ品質はとても良いものだったので、それらを最大限活用できるように、JA職員の方とも連携しながら飼料設計を提案していきました。その結果、配合飼料の給与量は、最も多かったときの3分の1程度になりましたが、1頭あたり乳量は維持されました。古田さんが自給飼料の品質にもこだわって見直されたことが良い結果に繋がりました。

 

古田 牧草にも“旬”があります。乳牛にとっての栄養価が最も高まった時期に刈り取って(適期刈取)サイレージに調製できるよう、JAとも相談して牧草の品種も見直しました。現在では、体調を崩す乳牛も少なくなり、遺伝子組換え混入防止管理済みの飼料を与えながら、乳量も乳質も良い状態を維持できています。

 
古田牧場のこれからの目標

――古田牧場のこれからの目標について教えていただけますでしょうか?

 

古田 自分達の土地から牧草を収穫し、乳牛に与え、生乳を牛乳・乳製品にする。乳牛の堆肥を使って発電し、その電気で搾乳する。液体肥料は畑に還元し、また牧草を収穫する――このように、資源循環の取り組みへ、酪農業としてもっと携わっていきたいと考えています。

 

渡邉 これからの酪農業や乳業にとって、最も重要な課題のひとつですね。

 

古田 士幌町では、持続可能な農業システム構築のひとつとして、家畜堆肥を活用したバイオガスプラント発電などが盛んに行われています。古田牧場では、その発電後の副産物である液体肥料を土壌に散布して、再び牧草を栽培するなど、乳牛由来の資源も積極的に有効活用しています。完全に地域内で資源循環させるのは、実際にはとても難しいことですが、自分達の食べるものは、自分達が元々持っている土地や資源から作れるように、酪農家として携われたらいいな、と思っています。

 
特選よつ葉4.0牛乳、生産者指定よつ葉牛乳

 今回は、「特選よつ葉4.0牛乳」と「生産者指定よつ葉牛乳」の原料乳生産に関わる酪農家のストーリーをご紹介しました。酪農家と乳業のこだわりをギュ~ッと詰め込んだ、よつ葉乳業が自信を持っておすすめする一品です。本商品はオンラインショップでも購入可能ですので、ぜひ、食卓でご賞味ください。

 

この記事を書いた人

よつ葉乳業 酪農部 木幡

よつ葉乳業 酪農部 木幡

滋賀県出身。趣味はトレイルランニング。体づくりのためにスキムミルクのおいしい食べ方を研究中。好きなよつ葉製品は北海道十勝 大人のカマンベール&ブルー。