すべてのチーズは、ナチュラルチーズまたはプロセスチーズのどちらかに分類されます。
より正確にいうと、日本では厚生労働省所管の国内の牛乳・乳製品に関する法令「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(以下、乳等省令)」が、「チーズとは、ナチユラルチーズ及びプロセスチーズをいう」と定めているのです。
続いて『乳等省令』は、「ナチュラルチーズ」と「プロセスチーズ」を次のように定義しています。
【ナチュラルチーズ】
乳、バターミルク、クリーム又はこれらを混合したもののほとんどすべて又は一部のたんぱく質を酵素その他の凝固剤により凝固させた凝乳から乳清の一部を除去したもの又はこれらを熟成したもの。
【プロセスチーズ】
ナチュラルチーズを粉砕し、加熱溶融し、乳化したもの。
チーズには、まず「ナチュラルチーズ」が存在する。
そして、ナチュラルチーズを加熱して溶かし、再加工したものを「プロセスチーズ」と呼ぶ。
とてもシンプルな定義です。
板状に成型されたナチュラルチーズ。見た目はスライスされたプロセスチーズとよく似ている
もっとも、チーズの歴史をひもとけば、『乳等省令』の定義はごく自然な流れに沿ったものといえます。チーズの歴史は紀元前数千年にまでさかのぼります。人類は牛・羊・山羊などさまざまな家畜の乳を使い、固めたり水分を除いたりする製法を考案し、世界各地で風土や気候に応じた多種多様なナチュラルチーズを生み出してきたのです。
「失敗せずに毎回ちゃんと完成させたい」「常においしく仕上げたい」「もっと長い期間食べたい」「持ち運んで交易したい」……人々がチーズに寄せる期待は、その長い歴史において進化の原動力であり続け、無数の試行錯誤を経て19~20世紀における工業生産技術と産業の飛躍的発展へとつながっていきます。
チーズを作る17世紀ヨーロッパの農民たち(1695年、銅版画)
Deutsche Fotothek, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で
19世紀に入ると、ナチュラルチーズの工業生産がスタート。まもなくチーズの規格化が進み、殺菌技術の研究も盛んに行われるようになりました。20世紀初頭には「クエン酸塩やリン酸塩を添加し、ナチュラルチーズを加熱することで溶解する」という初期のプロセスチーズ製造技術が確立。つまり、プロセスチーズはナチュラルチーズが傷むのを防ぎ、保存性を高めようという技術革新の中で誕生したのです。
プロセスチーズの生産技術はその後も進化を続け、形や風味、食感などバラエティ豊かな商品となって、アメリカや日本などで一大市場を形成。チーズ産業の急速な発展と一般家庭へのチーズの普及を支えました。
19世紀後半から20世紀初頭、アメリカ・ウィスコンシン州マディソンの大学の工房でチーズを作る学生たち
Internet Archive Book Images, No restrictions, ウィキメディア・コモンズ経由で
乳原料の種類と配合、乳酸発酵や酵素による固め方、熟成方法・期間、天候の影響などからなる無数の組み合わせが、多種多様なナチュラルチーズを育みます。
クリームチーズやモッツァレラなどのフレッシュチーズ、カマンベールに代表される白カビタイプ、エダムやゴーダのように熟成させることでうまみや風味を引き出すセミハードタイプ……というように、ナチュラルチーズはいくつかのタイプに分かれています。そして、タイプごとに、また各タイプの中でも個々のチーズに複雑な香りと味わい、食感などからなるユニークな個性があります。それぞれが持つ唯一無二の貴重な個性を生かすため、そのまま喫食され、楽しまれることも多いのです。
修道院や酪農家の作業小屋、家庭内などで少量ずつ手作りされていた時代と違い、嬉しいことに、今では清潔な工場で安定的に生産され、おいしい状態にととのえられたチーズを、いつでもどこでも簡単に手に入れることができます。よつ葉乳業でも、クリームチーズやカマンベール、チェダーにゴーダなどさまざまな ナチュラルチーズを製造しています。
好奇心のおもむくままに新たな個性と出会い、味わいのバラエティを楽しむことも、より好みに合う一品を選ぶこともできるのがナチュラルチーズの魅力。果てしない探求が可能な、その複雑だが豊かな世界が昔も今も多くの人を惹きつけているのです。
一方、プロセスチーズの特徴は加工性と保存性です。
プロセスチーズの主原料には、チェダーやゴーダなど1~数種類のナチュラルチーズを加熱溶解して用います。加熱により熟成が止まるため、味や香りを均質に保ちやすくなります。また、加熱する温度や撹拌スピードの調整、増粘安定剤の添加などによって、溶けやすさや糸の引きやすさなどの物性を変化させることもできます。加えて、スライスからカップ充填、キャンディ型まで成型も自由自在です。
加熱溶解の工程で微生物は死滅するため、保存性も高められます。プロセスチーズ特有の加工しやすさと保存性を組み合わせれば、業務用・家庭用ともに、さまざまなニーズに沿った「使いやすいチーズ」の開発・流通が可能になるのです。実際、総菜店やレストラン、給食など社会のさまざまな場所で、多くの消費者が知らず知らずのうちにその恩恵を受けています。
よつ葉乳業オンラインショップでも、食べきりサイズで個包装した よつ葉北海道十勝 ひとくちチーズ仕立て~チェダーチーズブレンド~とひとくちサイズの よつ葉北海道十勝 スモークチーズ、2種のプロセスチーズをご紹介しています。
それでは、ナチュラルチーズとプロセスチーズはどのように見分ければいいのでしょうか。最近は、ナチュラルチーズでも均等にスライスして密封パックしてあったり、プロセスチーズでも「チェダー」や「モッツァレラ」など主原料のナチュラルチーズの名前を商品名に加えたりというケースも多く、見た目や商品名だけではますます見分けにくくなっています。
ひとくちサイズにカット済みの おつまみチーズゴーダと おつまみチーズチェダー。一見するとプロセスチーズのようですが、これらは両方ともナチュラルチーズです
そうはいっても、ナチュラルチーズとプロセスチーズの見分け方は、とても簡単。「一括表示」の最初の行「種類別」を確認するだけです。一括表示とは、原材料名や内容量、保存方法などをまとめて記載し、線で囲んだ箇所です。国内に流通するチーズには、包装の裏面などに必ず記載されています。ナチュラルチーズとプロセスチーズのどちらか知りたいときは、チーズの見た目やパッケージ表面の商品名ではなく、一括表示を見ることをおすすめします。
なお、南イタリアが原産のリコッタやノルウェーのイェトスト(ノルウェー語で山羊チーズの意)などは『乳等省令』の「ナチュラルチーズ」にはあてはまりません。
この2種は、いずれも乳原料を固めた後に出てきた水分、乳清(ホエイ)を煮詰めて作るものだからです。リコッタはチーズを作る際に出てきた乳清の加熱により作られるホエイたんぱく質が主原料。イェトストも山羊乳の乳清を煮詰めて作るものです。
いずれも生産国ではチーズの一種とされていますが、日本の一括表示には「ナチュラルチーズ」ではなく、「名称:乳等を主要原料とする食品」と記載されています。
最後に、「フレッシュチーズ」について紹介します。
すでに軽くふれたように、フレッシュチーズはナチュラルチーズの一種です。非熟成チーズとも呼ばれ、代表的な種類にはクリームチーズやカッテージ、モッツァレラ、クワルクなどがあります。「非熟成」という大きな特徴があるため、ナチュラルチーズやプロセスチーズに続く第3の分類のように誤解されることもありますが、あくまでナチュラルチーズの1種です。
乳原料を乳酸発酵や酵素などで固めるところまでは、フレッシュチーズも他のナチュラルチーズと同じ。しかし、固めた後、完全には水分(乳清)を取り除かず、まったくあるいはほとんど熟成させずに食するのがフレッシュチーズの特徴です。水分量が多くなめらかな食感と、ミルク由来のやさしくフレッシュな風味、乳酸発酵によるほのかな酸味は世界中で愛され、料理やお菓子作りにも活用されています。
「フレッシュチーズ」について少し調べるだけでも、ナチュラルチーズにはさまざまな種類と特徴があることがわかります。ナチュラルチーズの多様で奥深い世界については、これからも少しずつ紹介していきます。